先日都内で行われていた、タクシー初乗り運賃410円の実証実験結果が発表されました。
この実験には私の勤務する会社も参加しておりましたが、その実験方法には疑念を抱いておりました。
JR新橋駅の指定乗り場から乗車する車両で、実証実験の表示を行ったクルマのみがこの実験対象車両となるのです。(乗り場は他にもいくつかありました)
「実証実験」というのなら、普通に考えれば比較対象集団をほぼ同条件で設定し、料金設定以外を同一にして、二つの実験結果を比較しなくては、意味がないと思いませんか?
この実験内容では、初乗り410円とした車両の乗車率や日ごとの売上は分かりますが、同じ日の同じ条件での730円初乗りのままのタクシーの、乗車率や売り上げの変化は比較のしようがありません。
本当に実験検証をやるなら、都内の営業エリア全域での流しタクシーのサンプル集団を抽出し、410円初乗りとしたものの乗車率(実車率)と売上を、730円初乗りのままのタクシーの乗車率(実車率)と売上と比較すべきです。
もちろん、その母集団のタクシー運転手の技能(営収を上げる能力)によっても左右されるので、平均営収のほぼ似通った運転手をそれぞれに配置する必要があります。
こうやって初めて本当に比較が出来るものを、指定乗り場乗車だけで何のデータを公表するのかと思ったら、そのタクシーに乗車した人に対して、乗車意向調査をしただけ・・・と聞き、驚きを通り越し怒りすら湧いて来ました。
「茶番」ですよね、これ?始めっから運賃改定ありきで、世論誘導して改定へのおぜん立てをしたに、過ぎません。
私が初乗り410円を「値下げ」と表記しないのは、これはまったく値下げではないからです。
初乗り以降の運賃は、従来は280メートルごとに90円(≒0.321円)ですが、新料金では237メートルごとに80円(≒0.337円)なのです。
渋滞がないと仮定して比較すると、10キロ(1万メートル)の料金は
従来は2キロ730円+8,000メートル×0.321円≒3,290円
新料金では1.059キロ410円+8941メートル×0.337円≒3,420円
となってしまいます。完全に「値上げ」です。
2キロ以降の料金は、むしろ高くなってしまうこの料金体系は、これまでのタクシーの中心利用層の離反を招くのではないかと、懸念しております。深夜のロングのお客様の料金は、確実に1割以上は高くなるからです。そんなんで「タクシー高いし、始発待とうか?」なんてなってしまえば、初乗りが下がる以上に我々タクシー運転手には痛い。私の場合で一か月の営収のほぼ4割が、深夜帯の売上だからです。
初乗りを410円にして営収が下がることは努力で補えます。しかし、大幅値上げとなる遠距離顧客の離反を招けば、これは努力ではどうにもなりません。
最大手企業の思いつきだけで始めて、内容を深く検証せず突っ走るのは、勘弁して欲しい。一つの産業の根本を変える時は、もっとしっかり検証を行って欲しいものです。