本の出版からは8年、映画の公開も終わって、ちょっと“いまさら”ではありますが、今日の平塚への湘南新宿ラインの車内で、この本を読み終えました。
本のカバーにもありますが、映画化もされています。公開は終わっちゃっていますけれど・・・。
「死にゆく妻との旅路」公式サイト
http://www.tabiji-movie.jp/
「死にゆく妻との旅路」 予告編 ~ You Tube
舞台は石川県七尾市。縫製工場を営む主人公が、その人柄の良さで引き受けた保証債務から自分の工場の資金繰りも行き詰まり、ワゴン車で末期の大腸がんの手術を終えたままの妻と二人の“逃避行”を描いた実話です。
七尾の小さな縫製工場で働いていた主人公は気ままな独身生活を続けていましたが、職場恋愛でもある奥さんとの同棲から結婚、そして安価な中国製品に押されて会社の経営が傾き始めたところで人材の整理が始まり、流されるような形で独立。
厳しいながらも一生懸命休まずに働いてさえ居れば何とか妻と一人娘、そして社員分の食い扶持は何とかなったでしょうに、引き受けた連帯保証人の債務で自分の工場も潰してしまうことに。
結婚から就職などの流れなんて、誰しも同じようなところがあるのかな?などと、ちょっと清水さんに親近感を持ってしまいました。私自身、女性に対して恋愛感情って抱いたことがないので、なんとなく結婚まで行ってしまったところなど、私だけじゃないんだって何だか安心してしまったり。。。
翻って、保証人になったり、周囲から頼まれて独立したりってところは、私も同じ行動をしてしまいそうです。ただ清水さんと私が決定的に違うのは、私には信頼に足る配偶者が・・・以下略・・・
清水さんの行動を批判するのは容易いです。末期がんの奥さんをワゴン車の中で閉じ込めて引っ張りまわしていたと言われても、外見上は否定出来ませんから。
それでも、結婚以来夫婦で働き詰めだった二人が、この非常事態を機に「二人の時間」の尊さに気付き、殆どゼロに近い延命の可能性にかけるよりも残りの時間を共に過ごすことに重きを置いたとして、それは誰も批判は出来ない・・・と思うのです。
何より、この作品は私には身近過ぎます。
私の実家の中能登町は、清水さんの工場のある七尾の隣町。中能登でも縫製工場の倒産・夜逃げは日常茶飯事でした。それもこれも、中国からの安価な製品の流入が原因です。子供の頃、田んぼの畦道で聞こえていた縫製工場の大型織機の音が、昭和50年代の後半から消え始め、ついには姿を消してしまいましたから。
私の親族でも、同じように農閑期に縫製工場を経営していて、多額の借金を背負って破産して、そのあとアルコール中毒になって亡くなった伯父もいました。だから余計に、この本の描かれる世界は人事ではありませんでした。
能登は、旅行者には優しいですが、地元民同士はとても厳しいです。お互いにお互いを監視しあっているようなところがあり、余所者を受け付けないところがあります。「破産したらこの辺に住めん」って言うのは本当です。だから夜逃げになってしまうのです。
この本の内容は、普通であれば涙腺崩壊するような内容なのですけれど、私にとっては問題が卑近過ぎて、どんな悲惨な状況でも冷静に「そうだよな・・・」としか、感じることはありませんでした。
ただ、清水さんの、亡くなられた奥さんへの思いの複雑さが、あまり上手とは言えない文章の端々に感じられこそすれ、読み物としては内容を理解するのに2~3回読み返さなければ分からないことも多く、読みづらいところは多かったです。
それでも、このような状況に置かれた人の精神状態で、良くここまでまとめたものだな・・・と言うのが、率直な私の思いです。私が同じ立場なら、自分の気持ちが先走りすぎて冷静に文章を書くことなど出来なくなってしまうでしょうから。
しかし、映画に描かれる景色のなんと懐かしいこと。
能登は、北陸は自然こそ厳しいですが、その分人と人との結びつきは、強くなっているように、思います。
最後の瞬間の前に、「二人」の時間を過ごしたひとみさんは、どのような思いで、旅立っていったのでしょうか?