幕張の風

So-netブログ「From Makuhari~幕張の風」から移転しました。 仕事のこと、ニュースのこと、音楽のこと、野球はMarinesと高校野球中心に書きとどめたいことを書いて行こうと思います。

ぼくのボールが君に届けば。

ぼくのボールが君に届けば

ぼくのボールが君に届けば

  • 作者: 伊集院 静
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本

ちょっと古くなりましたが、また読みたくなって今日読み返してしまいました。

涙腺のゆるい私には、いつものように買った本を通勤電車の中で読むことが、この本は出来ませんでした。小説ですのでいわゆる“作り話”のはずなのに、読み手の今までの人生を投影しながらではないと読み取れないような、叙情的なのりしろの広い作品です。

伊集院静さんと言えば、私自身、夏目雅子さんのご主人というイメージが先行していましたが、とても柔らかで情緒的な文体から、短編を一度読んでからすっかり好きになってしまいました。 この本は、「小説現代」という雑誌に掲載された短編を、野球(ソフトボール)に絡んだものだけ集めて、一冊の本にしたものです。私には珍しく発売前に予約して買ってしまいました。

伊集院さんの文章は、必要以上に書き過ぎず、読む人の想像力に一部をゆだねて“韻を踏む”、俳句のような感じです。(私だけのイメージかな?)本のタイトルにも取り上げられている「ぼくのボールが君に届けば」という作品も、野球好きの不器用な父子に押しかけて結婚した離婚暦ありの女性からの視点で、不治の病にかかった友達にホームランを見せるために、懸命に練習をするこの“息子”を見守る話です。出すぎた表現はまったく無く、むしろ読み手がちゃんと受け取らないと、表現していることの半分も受け取ることが出来ないような表現で描かれていて、私自身、最後の「ぼんやりとにじんだ」の意味が分からなくて読み返したほどです。

他にも8編収められていますが、どれも読後に心が暖かくなる、いい作品です。短編ですのでこれ一冊読み切っても、ものの3時間くらいで読めてしまう分量ですので、忙しい方にも休日のひと時に、読んでみてはいかがでしょうか?